追想五断章米澤穂信 著
集英社文庫にて読了

内容(「BOOK」データベースより) 大学を休学し、伯父の古書店に居候する菅生芳光は、ある女性から、死んだ父親が書いた五つの「結末のない物語」を探して欲しい、という依頼を受ける。調査
を進めるうちに、故人が20年以上前の未解決事件「アントワープの銃声」の容疑者だったことがわかり―。五つの物語に秘められた真実とは?青春去りし後の
人間の光と陰を描き出す、米澤穂信の新境地。精緻きわまる大人の本格ミステリ。
アニメ氷菓の原作者である米澤穂信氏の長編読了。
最近のミステリの帯でやたらと目にする「最後の一行で必ず読み返したくなる」という馬鹿げた文句。
私はあの煽り帯、虫酸が走るほど嫌いである。何故かというと、その帯がつけられる小説で面白いものに当たったことがないからだ。
買っちゃうんだけどさ。
「葉桜の頃に君を想う」然り、「イニシエーション・ラブ」然り、
買って後悔すること、すること。
最後までミスリードさせる為だけのモノが多くて辟易する。
だが、敢えて言う。
追想五断章、最後の一文で瞠目することだろう。メインとなるのは、ある女性の父親・北里参吾が書いた五篇の「リドルストーリー」。
リドルストーリーとは、作者の言葉を借りれば「読者に委ねて結末を書いていない小説」だ。
要するに、謎を謎としたままエンディングを迎える類の小説。
私は、かなり好き。
残された謎を、自分なりの解釈する行為自体が好きなのだ。
(恩田陸の作品なんかは、いつまでもうんうん唸って考えてしまう)
本書の中の、五篇のリドルストーリーには実は結末が用意されている。
用意されているし、それは読者にも明かされる。
明かされるんだけど、明かされない。
そこらへんの匙加減が非常に上手い。読者を不快にさせない話の運びがある。
作中の「アントワープの銃声」が、ある年代以上の読者には
実際に起きた「ロス疑惑」を容易に想像させるのだろうけれど
私は巻末解説を読むまで、その事件そのものを知らなかった。
米澤氏の読者層は比較的若い世代だろうから、ロス疑惑のことなど念頭になく読み進めると思う。
それは本作の菅生芳光と同じ境遇となる。
「記憶に新しい一大事件の容疑者」と「大昔に起こった事件の容疑者らしい」というのでは
緊迫感が違う。それが、本作の肝でもあるように思う。
容疑者は殺人を犯したのかどうかという緊迫した高揚感ではなく、
地味に地味に興味が湧いてくる仕掛けで
気がつくと頁を捲る手が止まらなくなるのだ。
そして、最後の一文。とても、とても美しい一文。
これを読めただけで、私は「追想五断章」を賞賛する。
残された謎は、参吾にしか分からない。
この一文は、
すぐに読み返して謎を解こうなどの愚行に読者を走らせはしない。ただ、美しい謎の余韻に浸らせてくれる。
真実は解明する為にあるのではなく、ただ存在しているのだと思わせてくれる。
恩田陸「ユージニア」や、桜庭一樹「私の男」が好きな方は買って損はしない。
ということで、「追想五断章」美味しくいただきました。
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