「花とアリス」から8年。
ようやく岩井俊二監督の長編映画にありつけた。
オールカナダロケ。全編英語。外国人キャスト。蒼井優。
わくわくするしかない。
内容紹介
惹かれあう孤独な魂たち。この世の果ての恋物語ーー。
「死ぬなら君の血をくれないか」
「僕はヴァンパイアなんだよ」
学
校では自殺を考える生徒を説得する誠実な教師を演じながら、プライベートでは自殺サイトに接触し、若い女性の自殺を幇助する代わりに、血を飲ませてもらっていたサイモン。
自殺志願者の間では有名な存在で恐れられているが、せっかく飲んだ血は吐いてしまうし、他の殺人犯が女性を狩る姿を見てパニックになる、気の弱い男でもある。
ある日、血を抜かれた若い女性の遺体が相次いで発見された。“ヴァンパイア"と呼ばれる連続殺人犯が世を賑わす中、サイモンは、新た
な女性との出会いを求めようとする……。
孤高なる美意識と世界観で読者を魅了し救済する、岩井ワールド炸裂の恋物語
(Amazonより抜粋)
ヴァンパイアと聞くと、もれなく銀の十字架やニンニク、太陽光で灰になる吸血鬼を思い浮かべる。
だがしかし、岩井俊二のヴァンパイアはそうではない。
吸血行為は陽射しが美しい昼日中に行われ、ニンニクの効いたパスタも食べる。
この吸血鬼は、不老不死でもなく超能力もない、普通の男である。
ただ、血を飲むということに異常に心惹かれてしまった、ただの人間でしかない。
事前情報をインプットしないまま、鑑賞した。
私とて、所謂ヴァンパイアが現れることを期待した。
死にたがりの女に、優しい言葉で近づき、一緒に死んでくれるのに
女が死んだ後で生き返るようなヴァンパイアを。
しかし、サイモンはそうしない。
不器用ながらも、一所懸命に死にたがる少女たちを「血を抜いて死ぬ」という方法に誘う。
彼は、一緒に死んでくれるわけではないのだ。
少女を冷凍庫に横たえると、儀式然としてくる。
それが、とてもとても美しい。
サイモンの母に取り付けられた風船も綺麗。彼女は天使かもしれない。

吸血鬼と言えば、吸血行為は暗に性行為を示している。
けれど、岩井俊二は、ただ血を飲むという行為自体を恍惚として描いている。
劇中人物レンフィールドのように、吸血と射精を混同しないことが
「誰も描けなかった吸血鬼」というキャラクターだと思う。
今までの岩井作品というと、
溢れ出る変態汁をどうにか隠してるんだけどやっぱり染みでちゃってる映画という印象だった。
8年経って隠すのをやめてオープンしてみたら、
変態汁びたしの中で何故か美しさと切なさが際立っている。どこが変態って、花とアリスでもそうだけど、少女たちへの観察眼が鋭すぎて震えがくるでしょう。
「少女」或いは「女子」しか持たないニュアンスを完全再現してしまうのが岩井監督。
かつて少女や女子だった女性でも、忘れてしまっている瞬間を作れる成人男性(50)これを変態と言わずなんと言う。
アンビリバボーの再現ドラマとかなんとか揶揄されてはいるが、
カナダロケにする必要性はあったと思う。日本人キャストでこの物語を描けば、想像するだけで空々しく馬鹿げている。
金髪碧眼の美しいお伽話の住人たちと、日本を代表する魔女・蒼井優であってこその映画だろう。
とはいえ、
塚本晋也化現象は危惧すべき。
脚本+監督+撮影監督+音楽+編集+プロデュース:岩井俊二
原作:岩井俊二「ヴァンパイア」幻冬舎刊
自主制作かっていう。
もちろん、数多くのスタッフが現場にはいるけれど
監督の制約が減るということは、それだけ客観性が無くなるわけで
良くも悪くも岩井俊二作品だと言われてしまうのも仕方ないことなのかもしれない。
音楽も単体で聴けば綺麗なんだけど、「花とアリス」と被りすぎてて気が散ってしまう。
せめて音楽だけでも違う方を起用したほうがいいなじゃないだろか。
篠原昇撮影監督を乗り越えて、新たな相棒が見つかることを願う。

8年、しかも女性が一番顔が変わる時期の前後で印象が変わらないというのはもう魔女ですよ。素晴らしい。
ということで、「ヴァンパイア」とっても美味しくいただきました。
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